グランド・マスター見てきた

 ウォン・カーウァイ監督の香港アクション映画。
 
 詠春拳八極拳太極拳八卦掌洪家拳形意拳など有名なクンフー流派の統一と争いの話。日本軍の侵略を明示的に描いていた。中国があたかも和を尊ぶ国で、戦争被害者であるという演出だが、今の中国がこれを言ってもなという印象。
 香港アクションとしては面白い部類に入るが、映画のふれこみとちょっと違う。「最も強い流派はどれか」などというふれこみだったので、詠春拳八極拳の対決で締めるのかと思いきや、ほぼ接点なし。まぁセミフィクションだから、史実として語り継がれていないのであればしようがないが、その点は期待と違った。
 やはり香港アクションは世界的に見ても出来がいい。日本ではこういうものを作れる監督もキャストもいないと思われる。

 それにしても香港アクション映画の格闘シーンはやたらと手数が多い。明らかにクリーンヒットが決まったように見えてもまだピンピン動く。空手の横蹴りと中段回し蹴りで軽く止められてしまいそうなものだが、なぜかマスター同士の格闘シーンでは密着しながらの攻防が多い。クンフーでは相手から離れるなという教えもあるが、演出によるところが大きいだろう。脇役相手には一撃で決めるシーンが多いのだが、マンガだと思って見ればいいか。
 八極拳は相変わらず伝説の中にあるような八極拳で、裡門頂肘を喰らった相手が数m浮いて吹っ飛ぶという演出になっていた。冷静に考えて即死できるダメージだが、その後ピンピンしていた。かっこいいが、ありえない。
 チャン・ツィイー八卦掌は美しく、物語におけるキャラクターのオチもなかなか味があった。掌打がものすごく弱そうだった。鍛えられた北派武術や空手にこれでどうやって勝てるのかかなり疑問では有る。昔から柔拳の強さには懐疑論がつきまとっており、かなり発勁を磨いた柔拳でも、当てる前に蹴りに勝てない。また、八卦掌太極拳が実際に勝ちまくっている情報をあまり見かけない。

 日本におけるかなり昔のマンガで「拳児」というものがある。このマンガはグランド・マスターにも出てくる流派のマニアックな知識や伝説的な胡散臭い知識まで幅広く盛り込んでいるマンガで、このマンガに影響されて日本で八極拳ブームが一時期起きたらしい。グランド・マスターの告知を見た時に拳児を真っ先に思い出した。拳児でも八極拳伝説がまことしやかに扱われており、特に李氏八極拳の伝説に関しては、強かったのはそうなのだろうが、かなり盛ったであろう内容になっている。李書文の猛虎硬爬山で道場破りの相手が数m吹っ飛んで即死したという伝説などはかなりあやしいが、伝説上ではクンフーを積むとそういった発勁が身につけられるそうだ。