スクエニが「Thief」を日本代理発売

 アイドス社がかれこれ15年ほど前に出したPCゲーム。一人称3Dでステルスゲームというジャンルである。これをこのリメイク版をスクエニが日本で代理発売。プラットフォームは家ゲーのみのようだ。なかなかセンスを感じる選択だが、元が「当時にしては」ものすごい作りだったので出来が気になる。最初はスクエニがリメイクでもしたのかと思ったがさすがにそうではなかったようだ。
 まだゲームがまともに遊べるPCが20万円前後した時代、3Dグラフィックスプログラミングのために用意したPCをたまたま持っており、そのPCで使っていたMatroxビデオカードにこのThiefが同梱されていた。ビデオカード自体は4万円弱程だったが、Direct3Dにもまだ固定機能レンダリング機能しかない時代で、Matroxのカードはそのビデオカード固有の実装としてバンプマップや環境マップ計算用回路が実装されていた。現在これらの機能は「シェーダー」と称される機構により、どのように3Dグラフィックスを描画するかという部分が、プログラマブルになってから長い。
 日本において自称ゲーム通は大勢いると思われるが、このゲームは日本語化されておらず、英語に抵抗のないコアなゲームファンしかまともにはプレイしていない。国外では無論話題になっており、その作りは当時としてはハッカーの技巧に富んだもので、国内の大多数のゲームソフトで使われている技術などは陳腐としか思えないような出来であった。ステルスゲームだと国内ではメタルギア・ソリッドがまず出てくるだろうが、使われている技巧はそれの比ではない。国内でも著名な国外ゲームではアサシンズクリードなどだろうか。
 当時のThiefはグラフィックス自体はDirect3Dの固定機能ぐらいしか使えなかったため、テクスチャーや多少のバンプマップや環境マップを駆使している程度で、現在の水準から見ればしょぼく見えるが、なんといっても計算幾何やAIの使い方が面白く、矢で打たれた敵は、矢が刺さったまま襲ってきたり、誤って武器で壁を叩いてしまったりするとその音や足音で気づかれこちらを探索しようとしてくるなど、ステルスゲームステルスゲームであるための技巧がこらされていた。当時としてはまだ馴染みのなかった3D音響技術により、自分と他の音源との位置関係で聞こえ方がちゃんと変わるといった実装もあった。これらの実装により、当時他のゲームでは決して味わうことの出来ないリアルなゲームとなり、没入してプレイした覚えがある。使われている英語が馴染みのないものばかりなので英語の勉強にもなった。
 このゲームに触れたことにより3Dの面白さと可能性を学んだと言っても良い。日本人は日本語で手に入るゲームソフトばかりをプレイするだろうし、日本のゲームこそが世界一だと勘違いしていた時代が確かにある。デザインや好みといったことに関してはそれもわかるが、技術に関しては全くそのようなことはなかった。Thiefに明らかに影響を受けたと思われる作品もこれ以降いくつも出ており、やはり傑出した作品であろう。十数年の時を経て原作が日本で広く知られることになるのは感慨深い。